Thursday, March 31, 2011

大地震と津波

 日本のみんな、元気ですか?
 久しぶりにブログを更新するにあたって、まず、今回の地震と津波の犠牲者と被災者の方々に、心から哀悼の意を表したいと思います。日々入ってくる悲惨なニュースを目にしては、何か出来る事は無いかと心を痛め、週末働いているカフェで募金箱を置いた所、アメリカ人達の意識も高く、あっというまにお金が集まり、ささやかながら日本赤十字に送金する事が出来ました。募金して頂いた方々に、この場を借りてお礼申し上げます。
 地震と津波に関して、自分からコメントする事は何もありません。ただただ、この有史以来の大災害を何とか乗り切って、生き延びて欲しいと願うばかりです。しかし、このまま海外に居て、だんまりを決め込んでいるのは何だか卑怯な気がしてこれを書いています。私は95年の阪神淡路大震災の時、当地に半年ほど仕事で赴いた折り、大地震の惨状を目にしました。今回はあの被害に津波が重なっていると思うと、私のつたない想像力ではもう、どの程度なのか想像がつきません。
出来る事なら直接現地に行って、この身を以てお手伝いがしたいのですが、海外に居る手前それも叶わず、歯がゆい思いをしています。

 テレビから流れてくるおびただしい量の映像に晒されている私たちは、いつでもそれが事実だと受け止める癖がついてしまっていますが、報道自主規制もあって、中々被災地の実情というのはモニターを通しては伝わってこないものだと言う事が、youtubeにあがっていた、とくダネのフッテージを観て実感されました。
そのフッテージとは、とくダネの取材班が、行方不明の母親を探す男の子とおじいさんの二人組に偶然会ったところから始まり、津波で流された車の中でその亡骸を発見するというものです。
大変な反響で、賛否両論あったようなので、もうご覧になった方も多いかと思われますが、以下にリンクを貼っています。
ただし、グロテスクな映像は含まれていないものの、衝撃的な内容なので御自身で判断してクリックして下さい。


これが現実なのだと思いました。そしてこれが、3万件ちかくも今そこで起きている事なのだと。

「今更こんなものを観て、何になる」という意見には私も賛成です。人の苦しんでいる様を観て同情しているのは下品だと思います。でも、この現実に少しでも深い理解を進めておかないと、私はこれから先の人生において、何か大切なモノを失ったまま過ごしてしまいそうに思えるのです。
仮に、この映像を目にしなかったまま過ごしている自分が地震について語っているのを想像した時に、そんな自分に何とも言えない嫌悪感を感じるのです。もちろん、これが全てではありません。その意味で、いくら知識を増やした所で被災者の皆さんとは経験を共有している訳では無いのだから、自分がこの災害について口にする時についてまわる「うすっぺらさ」は拭いきれないのですが、だからといって、じゃあこれについてはもうこれ以上は話すのをやめよう、としてしまっては、またいつか平和ボケした自分が頭をもたげてくる気がして嫌なのです。

 今回の災害に関しては、目に飛び込んでくるニュースに対して、他のニュース同様に表面的な情報として受け取る事も、一つ一つに胸を痛めながら自分の事の様に受け取る事も、どちらも適切でない感じがします。ことさらにニュースを追っかけても、自分にトラウマを植え付けているだけなのは重々承知なのですが、現実感を伴った目を持ってニュースに接するという事は必要な作業だと思いました。

Thursday, March 3, 2011

26世紀青年



 何なんだ、このタイトル。どう考えても「20世紀少年」ありきでつけてるだろ、これ(笑)。
俺がこんなに憤るには理由がある。なぜなら、この映画のタイトル(原題)は非常に意義深く、既にこの作品の一部だからだ。
無意味な邦題が、日本20世紀フォックスDVDの担当者のバカさ加減を露呈してしまっているこの映画だが、実はIDIOCRACYという素晴らしい原題を持っている。
IDIOT(バカ)とDEMOCRACY(民主主義)の造語だ、と日本語版アマゾンのレビューに書かれていたけど、実際はその現代アメリカを象徴する二つの単語をIDIOSYNCRACY(特異性)というもう一つの単語でくくった非常に秀逸なタイトルだ。
このidiosyncracyとは、対応する日本語が無いため翻訳しにくいけど、「ある特定の地域や集団に固有の性癖や特徴」を指す言葉で、正にこの映画が描かんとしている「アメリカ特有の病理」を言い当てていて素晴らしい。

 現代アメリカを風刺したこの作品、公開時に20世紀フォックスが、その内容から観客を刺激する事を恐れて、予告編すらも作られず、宣伝も全くなされず、ある日突然たった130館のみで公開された希有な作品。
この出来事が、ハリウッドが自分達の客をどう考えているかを物語っている。しかも日本でも未公開。
しかしDVDのリリースで火がつき、皮肉にも9億円の売り上げをあげており、この配給側とマーケットのズレこそが、本作のターゲットとしている観客なのだ。

 主人公(オーエンウィルソンの弟、ルークウィルソン)のジョーは、座ってるだけでこれといって特別な仕事もせずに給料をもらっている典型的な公務員(軍人)。身体能力、健康状態、知能等何をとっても「素晴らしい程」アベレージな男。しかも身寄りの無いその彼と、これまた同じ様なアベレージな女性リタの二人を検体として、陸軍が人口冬眠の実験を行った。しかしその直後に担当者が売春斡旋で逮捕されてしまい、計画自体が放置の末、破棄されてしまう。何も知らずに冬眠を続ける二人。
ある日、突然のショックで目を覚ますと、そこは500年後の世界だった。二人が眠っている間に、世界はSFで観たそれとは随分違った進化を遂げていた。20世紀にその進化の頂点に達した人類は、「経済的理由を考えると子供を作れないというIQの高いバカ」と、「何も考えてないから子供ばかり作るIQの低いバカ」の二つに分かれ、当然その子孫はIQの低いバカばかりになってしまい、その後劇的に知能を退化させて行く。農業と医療の発達と天敵の不在がもたらしたのは、自然淘汰の効かなくなり無駄に増え続けた人間達だった。テクノロジーと消費社会は究極の便利さを提供し、人間に「作る」事を忘れさせ、人々は「買う」ことで生活していた。
 そこは完全な管理社会であったため、システムに属していないジョーは早々に収監されてしまう。そこで受けた知能試験で、彼が人類最高の知能の持ち主である事が判明し、突然合衆国内務長官に任命。長年放置され、鬱積した人類の問題を一週間で解決しなければいけない羽目に陥る。何一つ特別でない彼に、はたして人類は救えるのだろうか?

 先日紹介したキンザザと同じだが、この映画は未来を描くという行為を通して現代を描いている。
人々はみなジャージを着ていて、その生地はブランドのロゴで一杯。
言語は乱れ上げていて、会話が成り立たない。
行政機関は民営化が進んでおり、行政サービスにはスポンサーの商品が提供されている。
大統領は元ポルノ男優でプロレスラー(それぞれレーガンとシュワちゃんのメタファー)。
ジョーの弁護士は資格をコストコで購入している。
笑いのテーマは下ネタ一色で、ニュースキャスターも筋肉モリモリと巨乳の二人組。
風俗店に進化しているスターバックスのポリシーの無さが、企業というモノの道徳観の低さを表している。
どれも今現在、現実に起きている事柄を少しだけ捻って描いてあるだけで、実際のアメリカは今すでにこうだと思う。
広い国土とモータリゼーションを基盤にして、50年代にほぼ全ての中産階級にハウジングの供給が済んでしまい、大量消費で生活のコストを抑える事に成功したこの国では、一部の都市生活者を除いてあまり仕事をする必要が無い人達が多い。
家賃を払う必要がなく、モノも安く、食費も安い。パスポートの所持率は6%と先進国でダントツ最下位で、外の世界を全く知らず、テレビが未だに生活の中心というライフスタイルだと、100年もしないうちにきっとこうなってしまうだろうと思ってしまう。
こんな条件の人達、日本の地方都市にもそろそろ増えてくるんじゃないかと思う。

 90年代半ばから2000年くらいまでのコギャルブームの頃の日本も、正にこんな世界だった。
今丁度30歳前後の年代から、大学の定員割れが始まり、ゆとり教育が始まって、日本人は決定的に変わった。
テレビで赤っ恥青っ恥なんか観て、仕込みなんだか本気なんだか分からなくて混乱したのを憶えている。
あ、でも最近だって「羞恥心」とかいう連中が無知キャラで売ってたっけ。

 最近の日本の20歳くらいの子達は落ち着いていてリアリスティックに見えるので、実情を知らない俺の目には、日本は良くなって来ている様に映るが、実際はどうなんだろう?コミュニケーションの薄さと視野の狭さは、ありありと見えるけれど。まだ10年前のように無知が大手を振って暮らしているんだろうか?
そんな事ないと願いたいが、今日また一人、日本にバカを見つけてしまった。
この邦題付けた奴は、きっとこの映画が描かんとしている人物に相違ない。