Thursday, March 3, 2011

26世紀青年



 何なんだ、このタイトル。どう考えても「20世紀少年」ありきでつけてるだろ、これ(笑)。
俺がこんなに憤るには理由がある。なぜなら、この映画のタイトル(原題)は非常に意義深く、既にこの作品の一部だからだ。
無意味な邦題が、日本20世紀フォックスDVDの担当者のバカさ加減を露呈してしまっているこの映画だが、実はIDIOCRACYという素晴らしい原題を持っている。
IDIOT(バカ)とDEMOCRACY(民主主義)の造語だ、と日本語版アマゾンのレビューに書かれていたけど、実際はその現代アメリカを象徴する二つの単語をIDIOSYNCRACY(特異性)というもう一つの単語でくくった非常に秀逸なタイトルだ。
このidiosyncracyとは、対応する日本語が無いため翻訳しにくいけど、「ある特定の地域や集団に固有の性癖や特徴」を指す言葉で、正にこの映画が描かんとしている「アメリカ特有の病理」を言い当てていて素晴らしい。

 現代アメリカを風刺したこの作品、公開時に20世紀フォックスが、その内容から観客を刺激する事を恐れて、予告編すらも作られず、宣伝も全くなされず、ある日突然たった130館のみで公開された希有な作品。
この出来事が、ハリウッドが自分達の客をどう考えているかを物語っている。しかも日本でも未公開。
しかしDVDのリリースで火がつき、皮肉にも9億円の売り上げをあげており、この配給側とマーケットのズレこそが、本作のターゲットとしている観客なのだ。

 主人公(オーエンウィルソンの弟、ルークウィルソン)のジョーは、座ってるだけでこれといって特別な仕事もせずに給料をもらっている典型的な公務員(軍人)。身体能力、健康状態、知能等何をとっても「素晴らしい程」アベレージな男。しかも身寄りの無いその彼と、これまた同じ様なアベレージな女性リタの二人を検体として、陸軍が人口冬眠の実験を行った。しかしその直後に担当者が売春斡旋で逮捕されてしまい、計画自体が放置の末、破棄されてしまう。何も知らずに冬眠を続ける二人。
ある日、突然のショックで目を覚ますと、そこは500年後の世界だった。二人が眠っている間に、世界はSFで観たそれとは随分違った進化を遂げていた。20世紀にその進化の頂点に達した人類は、「経済的理由を考えると子供を作れないというIQの高いバカ」と、「何も考えてないから子供ばかり作るIQの低いバカ」の二つに分かれ、当然その子孫はIQの低いバカばかりになってしまい、その後劇的に知能を退化させて行く。農業と医療の発達と天敵の不在がもたらしたのは、自然淘汰の効かなくなり無駄に増え続けた人間達だった。テクノロジーと消費社会は究極の便利さを提供し、人間に「作る」事を忘れさせ、人々は「買う」ことで生活していた。
 そこは完全な管理社会であったため、システムに属していないジョーは早々に収監されてしまう。そこで受けた知能試験で、彼が人類最高の知能の持ち主である事が判明し、突然合衆国内務長官に任命。長年放置され、鬱積した人類の問題を一週間で解決しなければいけない羽目に陥る。何一つ特別でない彼に、はたして人類は救えるのだろうか?

 先日紹介したキンザザと同じだが、この映画は未来を描くという行為を通して現代を描いている。
人々はみなジャージを着ていて、その生地はブランドのロゴで一杯。
言語は乱れ上げていて、会話が成り立たない。
行政機関は民営化が進んでおり、行政サービスにはスポンサーの商品が提供されている。
大統領は元ポルノ男優でプロレスラー(それぞれレーガンとシュワちゃんのメタファー)。
ジョーの弁護士は資格をコストコで購入している。
笑いのテーマは下ネタ一色で、ニュースキャスターも筋肉モリモリと巨乳の二人組。
風俗店に進化しているスターバックスのポリシーの無さが、企業というモノの道徳観の低さを表している。
どれも今現在、現実に起きている事柄を少しだけ捻って描いてあるだけで、実際のアメリカは今すでにこうだと思う。
広い国土とモータリゼーションを基盤にして、50年代にほぼ全ての中産階級にハウジングの供給が済んでしまい、大量消費で生活のコストを抑える事に成功したこの国では、一部の都市生活者を除いてあまり仕事をする必要が無い人達が多い。
家賃を払う必要がなく、モノも安く、食費も安い。パスポートの所持率は6%と先進国でダントツ最下位で、外の世界を全く知らず、テレビが未だに生活の中心というライフスタイルだと、100年もしないうちにきっとこうなってしまうだろうと思ってしまう。
こんな条件の人達、日本の地方都市にもそろそろ増えてくるんじゃないかと思う。

 90年代半ばから2000年くらいまでのコギャルブームの頃の日本も、正にこんな世界だった。
今丁度30歳前後の年代から、大学の定員割れが始まり、ゆとり教育が始まって、日本人は決定的に変わった。
テレビで赤っ恥青っ恥なんか観て、仕込みなんだか本気なんだか分からなくて混乱したのを憶えている。
あ、でも最近だって「羞恥心」とかいう連中が無知キャラで売ってたっけ。

 最近の日本の20歳くらいの子達は落ち着いていてリアリスティックに見えるので、実情を知らない俺の目には、日本は良くなって来ている様に映るが、実際はどうなんだろう?コミュニケーションの薄さと視野の狭さは、ありありと見えるけれど。まだ10年前のように無知が大手を振って暮らしているんだろうか?
そんな事ないと願いたいが、今日また一人、日本にバカを見つけてしまった。
この邦題付けた奴は、きっとこの映画が描かんとしている人物に相違ない。

No comments:

Post a Comment