Friday, November 5, 2010

ハードコアなりきりターザンごっこ

北での山籠りの最中、さすがにフラストレーションが溜まる時もあったりして、取材が終わって山を下りたら絶対に何処か遠くへ行こうと心に決めていた。
それもどこか特別な場所に彼女と行こうと。一ヶ月も相手にしていなかったお詫びも兼ねて。
そんな事を考えてる時、一冊の本を見つけた。その本はアメリカの色んなショートトリップを紹介している本で、これから国内旅行を計画している俺には、思わぬ助けだった。
取材先に居たエリックが住んでいるという、ヴァージニア州のアパラチアントレイルも載っていた。いつでも遊びに来い、と先週誘われたばかりだ。それも良いか。
フォーコーナーズあたりの先カンブリア紀の地層がむき出しになった景色の中をゆっくり車で巡る旅は、俺の夢の一つだ。それも載っている。
そうして走り読みしていると、一枚の写真に釘づけになってしまった。

どれほどの距離が離れているのかさっぱり見当のつかないスケール感の狂った断崖絶壁が、エメラルドグリーンの原生林に覆われて、巨人ののこぎりのように真っ直ぐに青空を切り裂いている。熱帯特有の原色の世界。


何故かは分からないけど、その写真を見た時に理由も無く嬉しくなってしまって、この景色を彼女に見せようとその時決めた。
取材を終えて、ギアを満載にしたバイクで帰宅した後、そのままネットでチケットを買ってパッキングを済ませ、カウアイ島がどんな所なのかもよく分からないまま、びっくりしている彼女を連れ出して、次の日の朝SFを後にした。

5時間後、俺達は北回帰線の南に居た。2008年のグアテマラ取材以来の熱帯。むっとした空気に押さえつけられる快感。
純粋にトランジットの為に止まったオアフだったが、一日のステイをとっておいて良かった。というのも、その日のフライトを次の日と勘違いして憶えていたバカな俺達、一日散々島中グルグル遊び回った後、飛行機が飛び立つその時間、見事にホテルで乗り過ごしていた。
でもその時iphoneが助けてくれた。モノは試しとフライト変更してみたら、通るじゃないか。危ないアブナい。

翌日、もう一回フライトに乗り遅れるという大惨事を経て(本当にバカです)、でも30分遅れで無事カウアイに着いた俺達は、島で唯一の、街にあるホステルに投宿してみた。
元々、日本人宿の管理人をしていた彼女は、色んな宿を見るのが好きだ。
俺も安宿に居る連中が大好きだ。
世界中どこに行っても同じ事しか出来ない短期滞在のリゾート客と違って、その多くが長期滞在者である彼らには、興味の対象を他人や外に求めているという、人として最も求められる基本の姿勢が備わっていると思う。
この宿、ネットのレビューはメチャクチャに書かれていて不安一杯だったのだが、泊まってみたら感じの良い一般的な安宿だった。
オーナーのスライダーは、ちょっと偏屈だけどいいヤツだった。
子供の頃オアフに住んでいた時に日本語放送で観ていたキカイダーに憧れてマーシャルアーツを始めたという彼は、心優しいブラジリアン柔術使いだった。
彼は、喧嘩で耳を齧られてる白猫と、足の悪い老犬の二匹と一緒に、太平洋の真ん中の片田舎で、誰かが泊まりにくるのを今日も待っている。

ハワイ諸島は、太平洋プレート下にあるホットスポットが火山となってマグマを地表に押し上げている所を、プレートがその上を移動しているため、それとともに北西に向かって順番に出来上がった連続した休火山のチェーンだ。
一番西にあるカウアイは、すなわち一番古い。
カウアイは、その為浸食が最も進んでいて、断崖絶壁が至る所で無数の滝に削られて、険しい谷を作っている。
このワイメアキャニオンは、「太平洋のグランドキャニオン」と呼ばれている。
島の中央に位置する最高峰ワイアレアレに遮られて、貿易風はその含んだ湿気をココで全て雨として地表に落とすため、高地では通年雨が降り続き、地球上で最も降雨量の多い場所となっている。
三日目に行った、アラカイスワンプと呼ばれる湿地帯は、その真ん中に位置しており、実際にはその場に溜まった水が無いにも関わらず沼として扱われている、非常に珍しい場所だった。
しとしとと途絶える事無く降り続く雨の中、暑くもなく寒くもない空気は、体の内側と外側の境目が曖昧になる。そこをびしょびしょのまま、泳ぐようにトレールを抜けて行く。
環境に適応したものだけが繁栄して行くという当たり前の純粋な棲み分けが進んでいる原生林は、手入れの行き届いた植物園よりも美しい。
そんな奥地まで半日もの時間を潰して連れて来てくれたデイヴは、朝ご飯を食べに寄ったカフェで捕まえた。
自身の事を Info-holic と呼んでいた彼は、60歳をまわった今も好奇心旺盛で、何の質問をしても答えてくれ、俺達と一緒になって観光を楽しんでくれた最高のガイドだった。
彼は何の見返りを求めるでも無く俺達をキャンプ場に残してまた来た道を独りで運転して帰って行った。

つづく

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