Sunday, June 19, 2011

ビーイング・ボーン ~驚異のアメリカ出産ビジネス



ウチの長男がこの世に生まれでてくるまで、後一月程になった。
嫁のお腹は増々大きくなって来て、今産まれても不思議じゃないほど張っている。
正直、ちょっとビビってる。

ウチは出産に当たっていくつか決めたプロトコルがあって、それに従って動いてる。
それは、俺が昔から決めていた事だったのだけれど、それを確信にさせる手助けとなった映画がこの「ビーイング・ボーン ~驚異のアメリカ出産ビジネス」だった。この作品は、分かりやすい歴史とデータをベースに、アメリカの狂った医療事情と、それを当然として受け入れているアメリカ人の「常識」に鋭く斬り込んでいる。詳しくは上記のリンクのライナーノーツを読んで欲しい。

ウチの出産に際しての決め事は、

1-病院での出産ビジネスには参加してやらない事
2-医学的に必要でない限り、無痛分娩や帝王切開などしない事
3-自然分娩で、産婆さんの立ち会いで、基本的に二人で産む事
4-産後は母乳で育てる事

ここで、普通の人達なら「何が特別なの?」と思うかもしれないが、ここアメリカでは事情が違う。
現在、アメリカ人の6割以上が無痛分娩で出産しており、帝王切開も3割を超え(そのうち何割かは無痛分娩とかぶっている事は言うまでもないが)、陣痛促進剤の使用は22%と、ほとんどが自然分娩で出産出来ていないのだ。実際にはその割合はもっと低いと思う。

これは問題だと思う。

もちろん医学的な理由でやむを得ない場合もあるだろう。そんなケースにおいては、「医学が進んでてよかったですね」と言いたい。ウチだって、今のところ順調だが、土壇場になって病院のお世話にならないとは限らない。
しかし、残念ながら大半の理由は、「痛いのが嫌だから」と、もう一つは「医者の都合」なのだ。
陣痛が始まってから出産までは、非常に長い時間がかかる事が殆どだ。
24時間を超える事も珍しくない。
医者の言い分としては、「いちいち全ての患者のそれに付き合ってられない」のだ。
しかもこうした医療の介入は、直接病院の収入となる。
彼等は、自分達のやっている事を「仕事」と思っているのだ。
陣痛導入剤の使用や、帝王切開と無痛分娩の併用によって、医者は自分達の就業時間に妊婦の出産を合わせさせる事が可能になった。
未だに人間は、どのようにして陣痛がそのタイミングで始まって子供が産まれてくるのかを知らない。
母体が決めるのだろうか?
それとも胎児が?
それとも両者の同意によって始まるのだろうか?
いずれにしても、そこにはその二人しか存在していない訳で、自然出産ならば誰も責める事は無い。それ以上でも以下でも無いからだ。しかしそこに医者の都合が介入してきたとしたら、どうだろうか?
胎児にとって、この世に出てくるという人生最初にして最大のイベントを、自分の同意無しに強制されたなら、俺だったら絶対に母親に裏切られたと思うと思う。


 ところで女性の体には、妊娠から出産までの間に様々なホルモンがそのステージにあわせて段階的に分泌される機能が備わっている。
いわゆる女性ホルモンや黄体ホルモンが、初期から後期までの体の変化に対応して精神をも変化させる。
ウチの嫁が太ったり大人しくなったり、優しくなったり眠たくなったり、明らかに情が深くなったりと、教科書どおりに変化しているのを見るのは、非常に楽しい。
人間というのはPCみたいなもので、OSをアップデートすると機能が変わるのだ。
人格まで変わってしまうのには、正直おどろいた。
この通過儀礼を経て、人は大人になるのだと思った。
妊娠も最終段階に入ると、オキシトシンというホルモンの分泌によって子宮の収縮を促し、陣痛が始まり、また痛みを誘発する。陣痛は回を重ねる毎に長さと痛みを増し、その間隔はどんどん狭まって行く。
母親は、この苦痛を究極まで耐えぬいて、いよいよ出産の時に生じる最大の痛みによって、沈痛の為にエンドルフィンというホルモンを一気に放出して、子供を産む。このホルモンには沈痛と同時に、快感を伴う「悟り」に近い精神状態にする効果が在り、この時に感じる快感はエクスタシーやMDMAによって得られる多幸感と同種のものであるともいわれており、経験した事のある方なら想像がつくだろう。
この、「苦痛を絶え抜いた後にやってくる開放感」と「多幸感」によって母親は子供を愛する事を自分にメタプログラムする。
これは科学的に証明された事実だ。

帝王切開や無痛分娩では、このプロセスがない。
それがどう母親や子供に影響するのか科学的なデータは無いようだが、そんな根拠を求める必要があるのだろうか?
これは母親側の話だが、子供の方はどうだろうか?

出産とは、胎児にとって初めて経験する苦痛であり、トラウマ的な体験だ。それをカバーする為にも、出産直後の母親とのスキンシップ(日本ではカンガルーケアというらしい)は欠かせない。そして一番はじめに出る母乳には、分娩で大量に放出されたエンドルフィンが含まれているため、それを呑む事で新生児は母親がその時感じている「多幸感」に似た愛情を共に感じる事となる。つまり母子共にトラウマを共有した後に快楽をも共有する訳で、この「感覚のジェットコースターの相乗り」が母子の愛情を繋ぐ事になるのだ。
そしてこの一番初めの母乳には、母親の持つ抗体も含まれているため、これを呑む事で新生児は環境に対応する。

すごいメカニズムだと思う。こんな複雑なシステムを何故考えついたのだろう?
女という生き物は不思議だ。
帝王切開や無痛分娩では、新生児は当然ながらこの恩恵を受けられない。


 先週のパパさんママさんクラスで、ウチの産婆さんが言っていた。
「痛いからといって、それは当然の痛みですよと放ったらかしたり、また難産の末、不幸にも胎児やその母親が死んだ時に、それを自然な事として受け入れる事が出来なくなった。痛ければ無痛分娩があるし、難産なら帝王切開できる。その結果、いままで成されてきた自然淘汰が利かなくなり、自然分娩出来ない体の女性達がどんどん子供を生んで、これから増え続けて行くだろう。私たちの生きている時代とは、そんな時代です。」と。
遺伝的に自然出産しにくい女性や、陣痛を受け入れる事が出来ない精神的に未熟な女性が増え続ける。。。

状況が好転しない事が分かっていても、自分の成すべき事をやり続けている彼女もまた、戦っているんだなと思った。

2 comments:

  1. UPされてから随分時間が経ってるのですが、読ませていただいてとても共感出来る内容で嬉しい気持になりました。
    ビーイング・ボーンを検索して辿り着いたのですが、私は只今妊娠6ヶ月で、病院や助産院を巡って結局自宅出産を選択したところです。
    助産師さんのスケジュールで助産院になるかもしれませんが、自分の産む力と赤ちゃんの産まれて来る力を楽しみにしてます。
    男性でこんなにも出産に対して協力的に理解してくれてる方がいらっしゃると知って嬉しいです。

    ReplyDelete
    Replies
    1. コメントありがとう御座います。
      ウチは頑張ってみたけれど、結局、病院で産む事になりましたが、悔いはありません。http://callife2010.blogspot.jp/2011/07/bodysong.html

      でも、もちろん自然分娩出来ていたら、もっと素晴らしかったと思います。
      自分と、赤ちゃんの力を信じて、素晴らしい出産にして下さい!

      Delete