Wednesday, August 18, 2010

Walkabout



 ケミストリーとは、不思議な物だ。それまで狂おしい程に思っていた相手が、急に特別でなくなったり、今まで全くの知人や友人の一人と思っていた人物が、急に輝いて見えたりするのだから。
生きている内に、そう何度も経験する物ではないけれど、それを感じた時、自分の事がケモノに思えた。なぜなら、いくら言葉で説明しようとしても無理だという事だけが、それについて言葉で説明出来る事だからで、それは完全に理屈を超えた感覚の話。
しかし逆に、そこにまた人間らしいところが関わって来たりする。このケミストリーを起こしたり失ったりする原因は、その相手とのコミュニケーションにあるわけで、その部分は完全に理屈の世界だったりする。たとえば、カッコイイとか可愛いとか、優しいとか頭がいいとか、そういう事だ。人間とは、なんと矛盾を孕んだ生き物だろう。
そこで先のリンクで Breaking up(別れ)を見ると、興味深い事が書いてある。Equity theory(男女間での報酬とコストが等価である事)によると、If a person in the relationship feels that the personal costs of being in the relationship outweigh the rewards there is a strong chance that he/she will end the relationship. と、ある。翻訳すると、恋人同士のうち一人が、その関係を続けて行く上で支払う犠牲(コスト)が報酬 (喜び等)を上回る時、別れという選択をとるチャンスがある、という事らしい。
何とも学者らしいカタい意見で、こいつ本当に恋愛した事あるのかなあ?と思わされるが、一歩引いて俯瞰で見た時に事実こういう部分はあると思う。誰でも自分が一番かわいいし、それを非難する事は出来ない。気持ちを尊重して、自分が損しながら関係を続けていても、結局、熟年離婚する夫婦みたいに続かないしね。そういった意味で、コミュニケーションとは、いつでも抜き身で向き合う真剣勝負の様なもので、お互いの力が拮抗している間はお互いの事を認め合えるという事なのかもしれない。

そんなケミストリーは、人が一生において咲かせる数少ない「花」のようなものだ。当然、その花を讃えるべく古今の人々が唄を歌い、詩を詠み、本を書き、映画を作って来た。しかしこれが、往々にしてラブストーリーという形をとるわけで、そうなるとどうも俺のテイストに合わない。何かこのケミストリーが垣間見せる「野生の不思議」みたいなものが描ききれている感じがしないからだ。ラブストーリーは、何だか人間っぽすぎて、リアルじゃない。でも、この映画 Walkabout は違った。


 二人の兄妹は、車で父親に連れてこられた荒野に居た。突然彼が二人を殺そうとしたため、二人は着の身着のままで砂漠を彷徨う事になる。二人は都会育ちの白人で、自然の中で生き延びる知恵を持たない。乾き、飢えた二人の前に、アボリジニーの青年が現れ、食物を与える。
アボリジニーには、子供の時から聴かされる歌があり、その歌は「先祖の足跡」として伝わる口頭伝承の歴史だ。彼等は、ある年齢になった時に、誰の助けも借りずに荒野を彷徨い、生き延びて村に戻るという伝統があり、それを英語で Walkabout という。ときにそれは半年にもなる長い旅。「先祖の足跡」はオーストラリア大陸の広大な土地を説明しているとされ、彼等はその歌を歌いながら、それを頼りにDream lineと呼ばれる道を辿って旅をする。彼はその途上にあったのだった。
三人は、彼の知恵を助けに荒野で生き延び、旅をする。全く言葉も通じない同士ながら、心を通わせる三人。やがて姉と青年は動物的な感覚でお互いが求め合っている事に気がつく。伝統に基づき求愛のダンスを踊る青年。しかし彼女は最後まで首を縦に振らなかった。なぜなら、時を同じくして彼等は文明の端にたどり着いたため、彼女の意識は、また文明社会へとスイッチしてしまったのだった。
皆、それぞれの世界へと帰って行き、時は流れ、ただ心の奥底に、あの時感じたケミストリーだけが残った。

 人にはそれぞれ、自分が属する集団があり、それは時と場所で変わっていくもの。この二人は、魂で愛し合えたけれど、人間が社会的な動物である以上、共に暮らせないのは仕方が無いのだろう。そして、動物的な感覚で求め合っておきながらも、社会的な感覚に目覚めた彼女が彼を拒絶するあたりが、人間の矛盾を衝いていて面白い。
そしてやっぱり、そこに鈍感なのは男で、そんな男をあっさりと切ってしまえるのが女なんだよなあ。

ところで、さっきの『別れ』の部分の最後にこう結んであった。
This also may go for the rewards outweighing costs in some cases. Breaking up can have intense emotional effects on people.
つまり、「場合によっては、報酬が犠牲を上回る時に別れを選ぶ人もいる。別れは過剰な感情の動きをもたらす。」という事らしい。幸せすぎて辛い、という事か。
ノルウェイの森かよ。バカバカしい。Fuck it.
こんなもん読まないで、Walkabout 観ようね。

1 comment:

  1. これ見て、ヤフオクで手に入れました。バリ良し♪有難う♪

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