Wednesday, August 4, 2010

Beautiful Islands



 1日から3日まで、ある番組の取材で南のサンルイスオビスポまで車で行って来た。サンフランシスコはいつもの通年変わらぬ曇天だったが、国道101号線を南に20分も下ると西海岸特有のカラッと乾いた夏だった。特にギルロイを過ぎてからの2時間程の道のりは、どこまでも続く小麦色の斜面。まるで芝刈り機で奇麗に刈り込んだかの様な牧草地が、気の遠くなる様な広大な範囲に広がっている。この先、Morro Bay という街に住む取材対象者へのインタビューだった。この場所は州立公園になっていて、大きな一枚岩の前にユニークな植生の森と入り江があって、豊かな自然が残されている。今回は、カメラと音声さんは日本からやって来ていたので、俺はアシスタント兼ドライバー。二人は息の合ったコンビで仕事もスムーズで、見ていてすごく勉強になった。細かい技とかでなく、撮影全体のスムーズ感が居合わせてて気持ちよかった。そんな二人が撮影した映画が先日公開になったそうで、俺も予告しか観てないけれど良さそうなので告知。

 Beautiful Islandsは、地球温暖化の為に近い将来海に沈んで消えてしまうと言われている3つの島々を巡ったドキュメンタリー。静かに暮らす島の人々は、自然と共に何千年も変わらぬ暮らしをして来た。しかし産業革命以降の工業化で、見知らぬ土地が生み出す欲の権化「二酸化炭素」が、彼等から島を奪い去ろうとしている。文化や伝統、そこに暮らす人々の絆などの「失われて行くもの」をカメラに収めたと、カメラの南さんは言っていた。警鐘を鳴らす意味でもっと衝撃的な映像は沢山あったけど、殆どカットだったそうで、そうする事でより静謐なトーンに仕上げ、全体に重みを持たせてあるという。秘すれば華、という事だ。監督はNHK出身の女性、海南友子さん。プロデューサーは是枝浩一さん。歩いても歩いてもは、俺の2008年のベストでした。

 インタビューや道中などの撮影はVaricamで、据わりのイメージショットは5dmkllでと、画の質を変えての撮影で、なかなか凝った事やるんだなーと感心した。上がりが今から楽しみ。しかし、すごい時代になった。Varicamの1/10くらいの値段で買える5dmkllの方が奇麗な画が撮れるんだから。いよいよ誰でもアイディアとちょっとした知識さえあれば映画が撮れる時代になってきた。自宅のガラージで録音した音源を部屋のパソコンで編集して、itune music storeで配信というプロモーションもデストリビューションも要らない流れ、既に音楽が辿った軌跡。ビデオも同じ方向に向かってる。HD cameraで撮影したフッテージを自宅パソコンで編集、YoutubeかVimeoで配信。全部タダ。もちろん、そこからお金作り出そうとしたら、もうすこし頑張らなきゃだろうけど。
こうして、一昔前には専門家でなければ出来なかった事がドンドン素人でも簡単に出来る様になってきたら、この先どうなっていくんだろう?世の全ての人々が表現者たり得る世界?

 勿論、新しい技術が安価に誰にでも享受出来る世界は素晴らしいけれど、こういった単純に価格で商品価値が測れなくなった状態は、資本主義の終焉が近い事を示していると思う。カメラ、自動車、家電品やパソコン等、商品開発に莫大な設備投資と研究開発が必要な物は、商品の消費サイクルが早くなりすぎて、商品化した時点で既に最先端では無いという事が起こりうるし、それだけのリスクを取って開発しても一旦市場に出してしまえば、すぐに中国製韓国製の安価なコピー商品が作られ、駆逐されて行く。SONYが、有機ELテレビの販売から手を引いた。理由はネットの規制に対応してない為とされているが、結局この新商品も単発で終わった。SONYとしては、復活の旗印としたかったようで、これも市場が飽和状態である事を示している例だと思う。企業が一生懸命頑張ったところで、消費者が「もう今のままで充分じゃん」と言ってしまえばそれまでなのだから。競争原理に基づいた社会や、消費と製造に基づいた社会というのに、もうそろそろ皆が飽きて来ている。
企業の皆さん、働き過ぎてないか?あなた達が作る程の量の商品を、私たちは必要としていない。供給過多と、過剰な供給にぶら下がって生きている企業人達。しかし彼等の仕事はそのうち、先述の様な彼等自身の生み出した技術の恩恵を受けた消費者達のクリエイティビティによって駆逐されて消えていくだろう。高度な分業化は終わり、ゆるやかなマルチタレントの時代へ。
羽田空港が10月に国際空港になるそうで、先日新ターミナルが落成して公開された。でも、既に予想されているキャパをさばききれない事が判明していて、落成時には拡張工事の必要性が語られていたという。一体何でそんな事が起こるのか?その二週間前には、東京成田間を36分で結ぶ京成スカイアクセスが開業。成田エクスプレスも在来線もあるのに、これから縮小が見越されてる空港にこんなに電車必要か?物事のスピードが早くなりすぎて、全てが同時に起きているような不思議な時間の感覚。昔、ぶっとんだ友達が "Everything is happening at the same time." と言っていたが、正にそんな感じ。

 真剣に働くのは良い事だし、そこに生き甲斐があるのは素晴らしいと思う。でも、それが競争を伴って必要以上のサービスや製品を生み出し、結果として地球の裏側に居る人達に迷惑をかけるようでは、決して長続きはしない。村上龍が、テレビで「趣味というものがよく分からない。いっぱしの大人ならば自分の一番時間を費やしている事、すなわち仕事が趣味である筈だ」と言っていた。これをプロフェッショナリズムと呼ぶのだとしたら、それはとても悲しい。そして迷惑な話だと思う。こんな人が増えたら、住みにくい世の中になるだろうな、と海外に居る俺は他人事のように思った。

以前紹介した180southのラストでも、patagonia とnorth face の創業者二人が言っていた。
「もし前進という事を話すなら、仮に、真っ直ぐに進んで来て崖の淵に行き着いた時、次の一歩を踏み出す事が前進と言えるのか?今は180度回れ右して次の一歩を踏み出す事が前進と言える時代なのではないのか?」と。

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