Friday, March 2, 2012

ガダラの豚/Bad Lieutenant



ニューオーリンズは雨だ。まだ夜10時過ぎだが、嫁も子供も後部座席でとっくに寝ている。
観光地のフレンチクオーターを離れ、あても無く街を一人で流す。
東に向かうと、段々とこの街が本当の姿を現し出した。
カトリーナによってメチャクチャに壊された爪痕は、未だにそこら中に残っている。
1/3ほどの民家は、その後再建される事も無く、放置されたままだ。
人々は廃墟の立ち並ぶ街で、日常をおくっている。
街灯も少なく、暗い。
なのに、所々大きめのビルの廃墟がライトアップされていて明るい。
ホームレスなどの侵入を防いでいるのだろう。

車を停める。ここが何処なのかよく分からないが、今日はココで寝よう。
目の前は、屋根の抜け落ちた廃墟。子供の頃に、友達と忍び込んだお化け屋敷を思い出す。
しかし、その隣は民家を改造したパブで、日曜日の深夜だというのに賑わっている。
土地には、それぞれの「気」というものがある。そして、往々にしてその「気」を代弁するドラッグがその地を席巻しているものだ。
日本の覚せい剤、カリフォルニアの大麻、北部メキシコのペヨーテ、タイの阿片、そしてこの街は、酒だった。
この街の人々は、本当によく呑む。観光名所は言うに及ばず、相当奥の住宅地でもパブは何処も賑わっている。そしてリズムは土の匂いがする。路上で黒人だけのマーチングバンドがカッコイイ曲やってて、通行人が踊り出してちょっとした路上パーティー状態になったりしていた。黒人ばかりなのに、バカみたいなヒップホップは影が薄い。
ベイエリアで見る黒人達が楽器なんか触ってるの見た事無いもんな。
先週マルディグラスが終わったばかりで、街はその余韻を残して、まだ少しじっとりと熱を帯びている。



今日、このブードゥーの街この本を読み終えるのは、不思議な縁だ。
7年前に友達が日本に帰る時に置いて行ったものだが、これまで一度も開こうとした事は無かった。それが何故だかこの旅に出るその日に、何の理由も無く持って出て来たのだった。多少の幼稚さはあるものの、面白くて一気に読んだ。
セコイアの森で、雪の山脈で、夜の砂漠で、そして今日、雨の街で。
旅の途上で、旅の物語を読むのが好きだ。
この物語もまた、旅の話だ。しかも、らもさんの書いた旅の話。
面白くない訳が無い。

主人公の大生部は民族学者で、アフリカの呪術を専門に研究している、その道では秀でた研究者だ。家族を連れての現地でのフィールドワーク中に、事故で娘を亡くしてしまう。それが元で、大生部はアル中に、嫁も鬱になってしまう。
それから7年、そんな大生部のもとに、テレビ局からアフリカでの呪術師の取材の話が転がり込んで来て、彼等はまた呪われたアフリカの地を踏む事になるのだが。。。。。。

ヒトのある所には、必ず喜びや悲しみがあり、幸せなヒトが居れば、必ずそれを妬むヒトも居る。社会には、それらの不平等や不均衡を正そうとするホメオスタシスのようなものが作用していて、これを不自然に押さえ込みすぎると、今アメリカで起こっている格差社会是正デモのような事がおこる。
ヒトが今の様な罰則を基準とした法治社会を造る以前、その仕事を司っていたのはシャーマンだった。この物語はそれを単純にオカルトとして描くでもなく、上手くストーリーに取り入れながら現代にはめ込んでいる。

そして、その現代は人類の歴史のなかで最も広範に変成意識が受け入れられている時代でもある。
その昔、ドラッグはシャーマンや彼がゆるした者達だけが手に出来るものだった。そしてそれを通して得られた経験を神託として社会が運営されていた。
しかし現代は、誰でも望めばそれが手に入る時代になった。そこに経験を積んだガイドとしてのシャーマンは存在せず、崇高な目的も失われ、快楽の側面が注目されるようになった。
結果、広大な精神世界を地図も持たずにうろつく輩が増え、無自覚に呪いを現実に持ち帰るようになった。現代とは、シュールリアルがリアルの中に流れ出している時代だと思う。

らもさん自身も元々その一人であって、そして何度もそのラインあたりをウロウロしながら生きていたように思う。そして最期、自分自身が「俺、いつか階段から落ちて死ぬわ〜」と予言した通り、階段から落ちて亡くなった。

この呪い/ブードゥーを、上手に空気感として取り入れている映画がある。それが今回の映画 Bad Lieutenant だ。監督のWerner Herzorgは、若い頃は哲学めいた大作を沢山作っていたのだが、今作ですっかり垢が落ちて、どの角度から見ても素晴らしい作品を撮る監督になった。ストーリーは、今回のこのブログの内容とかぶるので、敢えて書かない。ただ、素晴らしい作品なので、是非見て欲しい。

ここから、一路フロリダを目指します。

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