Wednesday, July 21, 2010

Bomb It!



ウチの近所 mission地区は、もともと中南米コミュニティだった所。当たり前だが街というのは、そこに住む人々によって作られているので、嫌が上にも彼らのニーズが反映される。だから、この近所は生活感が一杯。白人のコミュニティの様な洒落たスーパーなど無く、その代わり小さなグロッサリー(野菜や雑貨が置いてある商店)が沢山あり、通りにはヤシの木が並び、いつも買い物袋を下げた家族連れが溢れている。そんな中米の猥雑な雰囲気と暮らしやすさに惹かれて、ここには昔からアーティスト達が一杯住んでいる。

メキシコ+アート=グラフィティ

アステカ帝国の昔からメキシコは壁画が有名で、ピラミッド内部の壁画やディエゴリベラの描いた巨大な壁画等を旅行中色んな所で見た。しかも向こうの人達は自分の家を思い思いの色に塗るのが風習みたいで、お互いどっちがより派手なのかを競っているかのように色とりどり。丘の上から街を見下ろすと、モザイクのように奇麗だ。そんな彼らの地元に比べると、アメリカの街は地味すぎる。都市景観条例などの「この街は一体誰のもの?」と思わされる不思議な法律のお陰で、目に飛び込んでくる情報といえば企業の看板か商品広告ばかり。そこに暮らす人々は、常日頃から「買え買え光線」に晒されながら生きている。だから、故郷と同じ様に、大きな立体駐車場や学校の壁一面に壁画を描くのは彼らにとってごく当たり前の事だった。彼らラティーノの描く題材は、格差や労働、故郷、平和など社会的なトピックが多い。内戦の長く続いた彼らの故郷では、皆が通る街角に描かれる壁画とはコミュニケーションツールであり、啓蒙の為のツールであり、そして教育のツールでもあったのだ。ウチの目の前の壁にもcezar chavezrigoberta menchuが大きく描かれている。

だから、この街が壁画で溢れかえる様になったのは、ごく自然な流れだった。会った事も無いどこかの誰かが発信する、自分とは関係ない水着の女の商品広告などよりも、自分達にとってもっと重要で語り継いで行くべきものを、一番目立つ所に描く。そういった道徳がこの街の景色を作り上げて来た。そしてその伝統は、そこに移り住んできた新しい住人=アーティスト達に引き継がれ、彼らが自分達の作品としてグラフィティを描く様になって行った。だから、近所はどこもグラフィティだらけ。というのもこの街、落書きされたビルは、オーナーの自腹で塗り直しが件の都市景観条例で義務づけられてて、派手にやられると本当に笑えない損害がでる。問題になっているのはタグ(名前の落書き)。良いグラフィティの上にはタグを書かれないというグラフィティ業界(?)の暗黙の了解を逆手に取って、タグ防止の為にも逆に役立つという副作用を狙ってビルオーナー達はグラフィティを勧めたりしてる。これが覿面に効果を現したものだから、この辺りは日に日に上質なグラフィティが増えてきて散歩が楽しい。もちろんそういったオーガナイズされたものもいいけど、ゲリラ的なグラフィティの持つリアルな力みたいなものも好きなのだけれど。

そうした、行き過ぎた大量消費社会に対する反抗だとか自分達の民族的なアイデンティティの誇示、または単純な創作意欲がグチャグチャに混ざり合ってサンフランシスコのグラフィティシーンは一つの世界を作り上げてる。それはこの街に限らず世界中で起きている事の一部なのだと知ったきっかけが、この映画 Bomb It! だった。ドキュメンタリーとしてはしごく基本的な構成で、ビデオクルーが世界中を回って有名グラフィティーアーティスト達にインタビューを撮って回るという内容なのだけど、なにせ被写体それ自体が既にヴィジュアルアート。それが持つ力が凄いもんだから、とにかく画面に圧倒される。そしてこの映画が捉えたグラフィティの今とは、アメリカナイゼーションを通過した後、各地方の土着の文化と結びついてその本来のユニークさを再発見するという、グローバリゼーションの今の姿と符合するものだった。

グラフィティ好きなら、是非どうぞ。ちなみにこの本もいいですよ。

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